山口県下関構想区域 2023.12.26
現在、山口県の下関二次保健医療圏(以下「下関構想区域」という。)には急性期医療を担う300~400床の公立・公的等の4つの病院があるが、病床機能報告の結果と地域医療構想の必要病床数との間には大きな差があることが判っている。
地域医療調整会議では、この解消に向けての協議が進めらおり、2度の中間報告は提示はされているが、明確な結論には至っていない。
このことから、公開情報等のデータ分析から、山口県下関構想区域における地域医療構想での問題点等を抽出し、解決策を検討することとした。
一般病床・療養病床を有する病院や診療所が担っている医療機能は、病棟単位を基本として、「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4区分となっており、病床機能報告の際に、自院の病棟がどの区分になるのかを報告することとなっている。
地域医療構想は団塊の世代の全てが後期高齢者となる2025年に向け、病床の機能分化・連携を進めるために、医療機能ごとに2025年の医療需要と病床の必要量を推計し、都道府県毎に定められたものである。この地域医療構想の策定や各構想区域(≒二次保健医療圏)での進捗評価等に活用するとともに、患者・住民・他の医療機関に、それぞれの医療機関が有する機能を明らかにすることを目的として実施されているもののひとつが病床機能報告である。
病床機能報告では各医療機関の報告年7月1日現在と2025年7月1日予定の機能別病床数の状況が報告されている。
これらを構想区域単位で機能別病床数毎に比較を行うことで、地域医療構想と現状(病床機能報告)との差が明確になる。
本表は山口県下関構想区域での2022年病床機能報告結果と山口県地域医療構想の必要病床数を比較したものである。
本図は、前表である“病床機能報告と地域医療構想の必要病床数(山口県下関構想区域)”をグラフ化したものである。
下関構想区域内の各医療機関が想定している2025年7月1日予定の機能別病床数と山口県地域医療構想で想定されている必要病床数とでは、前者の方が650床程度多いことが判る。特に急性期病床が450床程度、慢性期病床が200床程度多い状況である。
この図は下関構想区域並びに隣接する宇部・小野田構想区域と長門構想区域での2020年における500mメッシュ当たりの人口分布を図化したものであり、地域の医療機関が実際に医療を提供する対象となる地域住民の分布の状況を示している。
下関構想区域における人口分布は構想区域全体の南端に局在していることが判るが、東端や西端にもやや分布していることも見て取れる。
なお、下関構想区域の南側は関門海峡で隔てられた福岡県北九州構想区域となっている。
※「人口分布」は国土交通省の国土数値情報ダウンロードサービスの”500mメッシュ別将来推計人口(H30国政局推計)(shape形式版)”を利用。
GIS(Geographic Information System)は QGIS 3.22.9-Białowieża を使用。
構想区域内の人口分布に医療機関(病院・診療所)の分布を重ねた図。本図では病院の機能や規模、診療所の有床・無床は反映させていないが、一部の地域を除いて人口が比較的分布している地域に医療機関が設置されていることが判る。
また、人口集中地域がこの構想区域の南端に位置していることから病院の多くがこの南端の地域に設置されており、北部地域にはほとんど設置されていないことが見て取れる。
※「医療機関分布」は中国四国厚生局管内の”保険医療機関・保険薬局のコード内容別医療機関一覧(令和5年9月1日現在)”を利用。
下関構想区域内の人口分布に入院病床の分布を重ねた図。入院病床数は許可病床数で一般・精神・感染症・療養等の分類は反映させていないが、人口集中地域である構想区域の南端にほとんどの入院病床が位置しているが判る。このことは北部地域で入院加療を要する患者が発生した場合に南端域ないしは隣接医療圏等での入院対応が必要となる可能性が大きいことが判る。
※各医療機関の「許可病床数」は令和4年度病床機能報告結果が公開差し控え中であることから令和3年度病床機能報告結果を使用。令和4年度分が再度公開された際に差し替え予定。
高度急性期・急性期・回復期・慢性期のそれぞれの病床機能別の入院病床の分布を表した図。高度急性期の病床は南端域のみに配置され、急性期病床もほぼ南側にのみ配置されている。これに対して、回復期病床や慢性期病床は北部の比較的人口の分布している地域にも配置されていることが判る。
機能別病床の分布図は全病床の分布図とは異なり、病床機能毎の分布の特徴が顕著であると言える。
「患者調査」の”病院の推計入院患者数(患者住所地),二次医療圏×性・年齢階級(10歳)別”の公開データは千人単位での開示となっており、「0.1」の表示だと推計患者数は「50人~149人」の範囲となるため、人口の少ない二次医療圏での分析では誤差範囲が大きくなる可能性がある。
地域医療構想においては必要病床数を算出する際の根拠として、二次医療圏毎の将来の入院患者数(=将来推計受療人口)が利用されている。
3年毎に実施される「患者調査」の結果報告では“二次医療圏単位での性・年齢階級(10歳)別の推計入院患者数”等の数値は開示されているが、表記が千人単位であることから個々の二次医療圏の入院・外来の受療状況の把握では誤差範囲が大きく、かなり大雑把になってしまう。実際、「患者調査」の結果報告でも推計入院患者数や推計外来患者数による「入院受療率」「外来受療率」は都道府県単位までとなっている。
このことから、二次医療圏単位の受療人口の将来推計には都道府県単位の「入院受療率」「外来受療率」を利用することとし、将来推計人口に受療率を乗じたものを将来推計受療人口とした。
患者調査の結果として提供されている都道府県単位の性・年齢階級別の入院・外来受療率は年齢階級の分割が10歳刻みと細かく活用しにくい状態である。このことから、よく活用される年齢の4区分(0~14歳、15~64歳、65~74歳、75歳以上)にして利用することとした。ただ、受療率の元となる推計入院・外来患者数も10歳刻みとなっているため、これを集約して、入院・外来受療率を再計算することとした。
図のように推計入院・外来患者数の年齢区分を4区分に集約し、同様に4区分されている都道府県人口から入院・外来受療率の計算を行った。
将来の受療人口の元となるデータは将来推計人口と入院・外来受療率である。
山口県の性・年齢階級別の入院受療率は前年比で観ると14歳以上では男女とも減少傾向にあるが、0~14歳では男女ともやや上昇傾向にある。
外来受療率では、前調査比率の上下はあるが、入院受療率のような明確な違いは観られず、横ばいが微妙な減少傾向の状態のように思われる。
国立社会保障・人口問題研究所では、5年ごとに実施される国勢調査を基に「日本の地域別将来推計人口」をまとめ、公開している。この推計は、将来の人口を都道府県別・市区町村別に求めることを目的としたもので、2023年12月11日現在の最新のものは2015年の国勢調査を基として2015年10月1日から2045年10月1日までの30年間(5年ごと)について、男女年齢(5歳)階級別の将来人口が推計されている。
ファイルはExcel形式で都道府県単位で公開されており、都道府県全体と各市区町村がシート別になっており、5歳刻みで男女計と男女別の30年間の人口推計結果が記載されている。
表示は山口県の男女5歳階級推計人口の中の山口県下関市の推計結果。
前述の「日本の地域別将来推計人口」より山口県下関構想区域の5歳刻みの年齢階級を4区分(0~14歳、15~64歳、65~74歳、75歳以上)にまとめてグラフ化したものが本図となる。これによれば、75歳以上を除いては全体的に減少傾向にある。75歳以上は男女とも2030年ぐらいまでは増加傾向にあるが、その後は他の年齢階級と同様に減少傾向となっている。
前図で2015年の人口を1.00とした場合の年齢階級別人口が本図となる。
75歳以上は男女とも2040年までは2015年よりも多く、男は2045年もまだ多い状況だと推計されている。
他の年齢階級は一貫して減少しているが、65~74歳では2035年辺りから若干減少傾向が緩和されると推計されている。
2023年推計の「日本の地域別将来推計人口」より山口県下関構想区域の5歳刻みの年齢階級を4区分(0~14歳、15~64歳、65~74歳、75歳以上)にまとめてグラフ化したものが本図となる。これによれば、75歳以上を除いては全体的に減少傾向にある。75歳以上は男女とも2030年ぐらいまでは増加傾向にあるが、その後は他の年齢階級と同様に減少傾向となっている。
全体的に2018年当時の推計よりも人口の減少度合いが顕著になっている。
前図で2015年の人口を1.00とした場合の年齢階級別人口が本図となる。75歳以上は男女とも2040年までは2015年よりも多く、男は2045年もまだ多い状況だと推計されている。他の年齢階級は一貫して減少しているが、65~74歳では2035年辺りから若干減少傾向が緩和され、2050年には再び減少すると推計されている。逆に75歳以上の男は2050年には増加傾向になると推計されている。
参考資料等
■山口県:山口県地域医療構想(2016年)[⇒link]
●山口県地域医療構想(2016.07)[PDF⇓]
■下関医療圏地域医療構想調整会議(2023.05.09)[⇒link]
●中間報告[平成29年度第2回下関医療圏地域医療調整会議](2017.10.31)[PDF⇓]
●第2次中間報告[令和5年第1回下関医療圏地域医療調整会議](2023.05.09)[PDF⇓]
■山口県:病床機能報告制度・2022年度報告結果(2023.09.01)[⇒link]
●2022年7月1日時点の医療機能別の病床数(下関保健医療圏)[PDF⇓]
●2025年7月1日時点の医療機能別の病床数の予定(下関保健医療圏別)[PDF⇓]
■厚生労働省:令和4年度 病床機能報告(2023年)[⇒link]
■国立社会保障・人口問題研究所:将来推計人口・世帯数[⇒link]